『さくらん』

映画『さくらん』鑑賞。独特な感じで、面白かった。
写真家の蜷川実花さんが監督ということであれば、『MORE』に連載されている、『妄想劇場』の極彩色の世界が、映像でも繰り広げられているに違いない、そう思ってわくわくして出かけた。本当を言えば、遊郭のお話でもあるし、PG-12でもあるし、いつもなら躊躇するところだけど、何か予告編がとてもポップで面白そうだと思ったのだ。タイトルがいい。『さくら』じゃなくて『さくらん』。『桜』『咲くらむ』が転じたもののようでもあり、『錯乱』の意味を含ませているようでもあり。

遊郭を舞台にした映画といえば、「吉原炎上」がすぐに思い出される。娼婦の悲劇性が強調された重いお話だけど、こういうのはひとつだけでいい。そう思いながら見てみたら、『さくらん』は期待以上だった。男女の絡んだシーンが、あまりいやらしく感じないのは、即物的な描写を巧妙に避けているのと、女郎たちがとても主体的だったせいだと思う。女性というのは、したたかだから、案外実際の遊郭というのは、こういうものだったのかも知れない。主演の土屋アンナさんが、流し目で男性を見やると、たちまちみんなとりこになってしまった、というのが個人的にはとても納得いった。何度も、ぞくっとした。それが男性目線でもそうなのか、意見をぜひとも聞いてみたい。

パンフレットの中でも解説されていたが、赤を中心とした鮮やかな色の数々と共に、黒が画面に必ずと言っていいほど配置されているところが、とても印象的だった。いい意味で、毒を感じる。そして、夜を感じる。そんな夜をバックにして、物語のあちこちで映し出される金魚。床の間に活けられた見事な花。色とりどりの着物、かんざし、ふすま、障子。そして女郎たち。何となく、先日見た「マリー・アントワネット」のパステルカラーと脳内で勝手に対比させてしまった。物語のほとんどのシーンが夜だ。その中に、朝や昼が、とても特別で重要なものとして出てくる。日の光の中での花が、はっとするほどきれいだ。桜、菜の花。最後のハッピーエンドがすがすがしくて、とても心地よかった。

あまり深く考えずに、浸って見るのが一番楽しめる映画だと思う。