『ステップ・アップ』

ダンス好きの娘が、映画の最初の宣伝を見たときから、ずっと楽しみにしていた映画。初日に二人で行って来た。ストーリーや役者の演技には特に惹かれるものはないのだけど、ダンスは素晴らしく楽しかった。聞けば、振付師である監督の第一回監督作品だとか。振り付けを主人公二人で作っていく時の会話が、とても説得力あって楽しかったけれど、それを聞いて納得した。夕日の中で二人踊るシーンの美しさは、ダンス好きのツボに入ると思う。それと、バレエとストリートダンスの異種混合が、最後の発表会のステージで見事に花開く感じだ。『フラガール』でも思ったけれど、クライマックスが晴れの舞台というのは、映画としてはなかなかいいものだ。心がとてもハイな幸福感で染められる。お祭りみたいだ。これが、ダンスだけの映像だと、どれだけ素晴らしくても途中で飽きてしまう。不思議なものだ。

さて、物語の舞台は、芸術高校。その卒業発表会までの奮闘記だ。舞台設定はどう見ても『フェーム』の焼き直し。主要人物のリロイが、『ステップ・アップの』主人公のターナーとかぶる。前向きに将来を考える女の子と、才能はあるもののその日暮らしの男の子という組み合わせは、『サタデー・ナイト・フィーバー』の焼き直し。主要人物の突然の死によって、みんなが変わり出す、という設定もだ。
ダンス映画は好きなので、出るたびにずっと見てきたけれど、もうそろそろ物語のパターンとしては出尽くしてしまったのだろうか。ダンス映画が集中的に作られたのは、今から三十年近く前のこと。日本の第一次ディスコ・ブームの火付け役となったのは、ジョン・トラボルタ主演の『サタデーナイト・フィーバー』だった。1977年製作と聞くと、もうそんなに経ったのか、と感慨深い。続く、『フェーム』1980、『フラッシュダンス』1983、『フットルース1984あたりがダンス映画の有名どころ、だろうか。今回は久々という感じがする。それにしても、恵まれない家庭環境に育った少年たちの日常って、三十年前と、あまり変わっていないような感じがする。しかし、そんな少年たちに才能とやる気があれば、いつだって上を目指せるシステムとなっているところが、いかにもアメリカ的だ。芸術学校の学生のほとんどが奨学生だという台詞でそれと知れる。問題は、その「やる気」なのだが、それが喚起されるお話、というところが今回のタイトルにもなっている重要テーマというわけだ。
だけど、登場人物たちの気持ちの変化については、「なんで?」というのが多くて、ちょっと違和感を感じた。特に、女の子の母親。ダンスに反対していたのに、何でいきなり? 私も娘の踊っているステージを見て、感涙にむせんでしまった口だから、ダンスをしている娘を認めたい気持ちはわからないでもない。自分の産んだ子が、きらきらしながら踊っている、というのが、夢のようで。だけど、ダンスで生きていく、というのは茨の道だから、親としてはやっぱり複雑なんだろう。それもわかる。それが、何でいきなり心変わり? まあ、いいか(逃げ)。

というわけで、満足度75%のダンス映画だった。