今年一年

今年も残りあと二日。
今年は……ほんと、仕事が忙しくて大変だった。まず、今年の初めにいきなり昇給した。それが、15%アップという思いがけないものだった。元締めにだめもとで「もうちょっと小刻みにアップにしてもらわないと、プレッシャーで潰れちゃいそうです」と訴えてみた。貧乏性が筋金入りだわ、このおばさん。もちろん、元締めは、励ましこそすれ、負の願いなんか聞き入れたりしない。だからもう、頑張るしかないのよ。ほかに取り柄がないんだから。
現場も、つい先月まで詰めていたところは、工期に余裕がないのに、諸事情でいろいろなことが決まっていかないところだった。「これも無駄になっちゃうかも」と焦りながら仕事をするのはなかなかに辛い。こいうい時の「なんとかなるから大丈夫」という励ましは心強かった。かなりいい経験だったと思う。そこが何とか形がついたところで先月アップして、今のところはともかく規模が大きい。ここまで大きいところは、ヘルプや竣工作業以外で入ったことがない。初めての体験で、どきどきものである。少しでも進めておきたくて、ちょっとハイペース。
というわけで、年末は、心身ともに緊張&疲れ気味の毎日だった。大好きな映画も、映画館で『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』を何とか六回リピートして、『プラダを着た悪魔』『トゥモロー・ワールド』を見たきりで、最近ちょっと見ていない。年末年始は娘と一緒にのんびり鑑賞しようと思う。

今年の初体験。八月が私の誕生月なのだが、娘がバイトして貯めたお金で、ダイヤのピアスをプレゼントしてくれた。こんなことしてくれる年になったのかぁ……。うるうると、母のヨロコビ。そのピアス、肌身離さず毎日つけている。ノーメイクだと何となくピアスが浮くので、気になって、このごろちょっと外出するときにも横着せずに、必ず最低限のメイクはするようになった。
もうひとつ。今年のクリスマス。ダイヤ繋がりで、自分のためにダイヤの指輪を買った。「自分ごほうび」というわけではない。わけあって、コーヒーとビールを一年間断つための「誓いの指輪」である。私の基準ではかなり高い。はめてみて思った。指輪があると手のケアがおろそかなのが目立つ。そこで、何となく気になってハンドクリームをつける。爪も地味だとつりあわないような気がしてきて、パールの入ったベージュピンクのネイルを塗ってみる。マニキュアって、ほとんどしたことがなかったのに。
そんな自分にはっと気がついて、コミック『はぐれ雲』にそっくりの話があるのを思い出した。仕官もせずモラトリアムを決め込んでいる優秀な武士に、はぐれ雲が将軍とおそろいの貴重な刀のつばをあげる。武士は、そのつばにつりあう高価な刀身を買い、さやを買い、服を買い、悪い友達と全部縁を切って……とうとう、前は嫌がっていた仕官をすることになった……という話だ。自己評価の低い人間の治療法、ひとつ発見したかも知れない。

最近、我が人生最大の「本の大人買い」をした。三十三冊。日垣隆著の最新作にあったブックリストを、「言葉の魔法使い化計画」のひとつとして全部注文してみたのだった。アマゾンのマーケットプライスに注文した翌日から、我が家の郵便受けは大変なことになっている。むかし働き始めたばかりの頃、ボーナスでずっと欲しかった某全集を買ったことがあった。清水の舞台から飛び降りるって、こんな気持ちのこと? と思った。その時自分がとても大人になったような誇らしい気持ちになったものだが、金額は今から思うと大したことない。子供と大人の境目があるとしたら、小さな大人と大きな大人の境目もきっとある。さて、新年のスタートは隙間時間をこれらを読破することで埋めようと思う。