『フロム・ヘル』『ソウ』DVD

しかし解せないのは、我が家の女子高生である。こやつ、服装、食べ物、持ち物、エトセトラの趣味はいたってノーマルに「女の子」である。しかし、問題なのは、本、コミック、音楽、映画、などなどの趣味だ。あ、男の趣味もだいぶ問題であるが、これについては母親の私が元凶なので、あまりとやかくは言えない。もとい、何が問題かというと、ブラック、グロ、スプラッターが平気なのである。土日で何か見ようと借りてきたのが、『フロム・ヘル』と『ソウ』だ。うーん、育て方をちょっと間違えたかなあ。思えば、この子が五歳の時にせがまれて買ったはじめての図鑑が『有毒動物のひみつ』だったことを思えば、今日のこのゲテモノ趣味も当然の流れと言えよう。
さて、『フロム・ヘル』は、ジョニー・デップ主演の一作ということで。こういう暗いカゲを引きずった役は、まさにはまり役だ。あんな、感情をぐっと内側に押し込めて、絶望と悲しみをたたえた暗い目、他の誰にも真似できないと思う。なにゆえ、これが『チョコレート工場』のウォンカ氏と同一人物なのだろう。
時は19世紀末、所はロンドン。犯罪史上名高い『切り裂きジャック』を追う警部と、一人の美しい娼婦の物語である。古い時代の道具立てが、陰惨な感じがするほど耽美的で、この贅沢な映像だけでも大満足。しかも、ジョニー・デップが美しい。キスシーンがたったひとつだけあって、これがしみじみと良い。おかげで『ロミオとジュリエット』みたいな、幸薄い恋人たちの結末を、まだ引きずっている。

この贅沢さとはまったく性質の違う贅沢、『ソウ』。本編を見た後、監督と俳優が、映像にかぶせていろいろしゃべっているのを見た。これが、ともかく傑作だった。恐い話を作る人なのに、どうしてこうも陽気でユーモアの塊なのであろう。二人の笑いの元は『低予算』『汚い現場』『女性以外はみんな死ぬ』『観客の反応』などなどであった。世界一チープなカーチェイス、なんて、言われなきゃ素人はわかんないのに。だけど、お金がなくても映像で迫力を出すことは十分可能だとわかった。二人の人物を固定カメラとハンドカメラで取り分けることで、それぞれの人のメンタリティを象徴的に表している、と聞いた時に、映画って、ひよっとして見るより作る方が面白いのかも、と思った。汚い現場で、それこそホコリまみれになりながら演じた俳優たちのプロ根性もすばらしい。しかし、何より、「よくこんな残酷な手口を思い付くわね」と敬意すらおぼえる(^^;)、殺人の数々。この恐さは後をひく。人間の本性の残酷さを描いた、ということだけど、悶える観客の反応を楽しそうに語る監督と俳優も、かなりのサディストだと思った。

次はもうちょっと穏やかなのを見ようかな。