本>『断る力』

勝間和代さんの新刊で、既にたくさんのブログや書評コーナーで感想が述べられている。
今まであまり書かなかったのは、他の人が私の分までいい書評を書いてくれるはず、という横着を決め込んでいたせいもある。
基本、自己評価が低いんで。
ただ、「断る力」というタイトルには、いろいろ思うところがある。
それで少しだけ書くことにした。

生前、父親が、仕事のオファーを断らないのは、若い頃に「あなたの代わりはいくらでもいるんだ」と言われた経験から、と言っていたのを思い出した。
やると決めたら、最初は無理に見えたものでも何とかできてしまう、ということに父親は快感を感じているようでもあった。
その父親は、50代前半で過労死した。
父親が半ば誇りにしていた、「頼まれたことにノーを言わない」は、無残な結果となったわけだ。
父親の時間を削りとった分、お金は一時たくさん入ってきた。
仕事の評価も高かった。
でも、死んでしまったら終わりだと、あの時つくづく思った。
かく言う私も、つい仕事に熱中するあまり、バランスを崩しがちになる性格なんだけど。
最近、「命をけずって」という表現を、よく目にする。
あのストイックさは嫌いではないんだけど、複雑な気分になる。
「断る力」を読んでみて、結局父親にも私にも足りなかったのは、精神論、感情論からすっきりと切り離した人間関係の技術、だと思った。
正直、私はもう、この本に書いてある通りに努力するのは遅きに失したので、娘には大いに学んで、これからの人生を元気に生きて欲しいと思う。

あちこちの匿名の書評で面白いのは、断るためには実力が必要、と早い段階で勝間さんが述べられているにも関わらず、「断ったら切られる」という反発がたくさんあることだ。
使い捨て労働力からスペシャリストへの移行には、断る力が必要で、それは「卵と鶏とどっちが先か」という問題だと明確に書かれていても、なおそれが出てくるのは現在の世相のために違いない。
でも、それを言う人たちこそ、こつこつ断る力をつけていくことで、人生が変わる、という話だと思ったりもする。
どうか希望を捨てずに、少しずつでもいいから努力してみて欲しい。

それと、有名人に対する攻撃の話は、私も強く心引かれた。
それは、もうかれこれ10年以上前からの、私のテーマのひとつだったからだ。
私の好きな役者・作家で、匿名で中傷されたことのない人はただの一人もいない。
それが、その人の輝きを損なうようなことになったら、私が困る。
そう考えて、1999年の10月から二年間、「芸能人と人権」というタイトルでホームページに20もの長文を載せたことがある。
三者の立場からでないと言えないことだと思った。
有名人の立場で言うと、それが余計に中傷のネタになってしまう。
だから、今回、それをやってのけた勝間さんは、本当に勇敢だと思う。
これで世の中の流れが変わってくれたら。
でも、見方を変えてみれば、黒木瞳さんですら悪口を言われるのであれば、悪口に必ずしも深い意味があるわけではないってことだ。
批判や中傷をおそれず、表現するべき、なんでしょうね。

書評でも感想文でもない、中途半端な文になってしまったけど、大事だと思ったことをまず書いてみた。