映画「夏への扉」見ました

映画「夏への扉」見てきました。

以下、ネタバレを含みます。

Twitterでは、ネタバレにならない程度に、「原作ファンは喜ぶ」とつぶやいている方がいましたが、ああ、こう言うことかと思いました。

そもそもですが、タイトルの「夏への扉」という言葉は、小説の冒頭の部分で、飼い猫が冬の最中に家中のドアを開けることをせがむエピソードにしか出てきません。猫は、大好きな夏に通じているドアがあると信じて、どこまでも諦めない、と。

タイトルにまでなっているのだから当然、夏への扉とはメタファーです。主人公は過酷な冬のような状況から、夏に続く扉があることを信じて、見事それを探し当てて開いた・・・そんなお話です。この本質的な部分をきちんと押さえて枝葉を整理したお話は、確かにこの原作を愛する者としては落涙ものでした。タイムスリップする幅が原作の1970ー2000から、1995ー2025と、25年の差があって、浦島太郎状態になるアイテムも大きく違います。なぜ、現在の2021年から2051年のお話に翻案しなかったのかな、と思ったのですが、ミスチルのカセットを聞いていて、あの時代での技術への夢や希望がフラッシュバックして、ひとりで納得しました。

ネタバレすると、この物語にインスパイアされた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、オマージュというよりアンチテーゼとして作られたのだろうなと、はっきり分かりました。「バック〜」では、過去に行った者が歴史を書き換えると、戻った現代がすっかり変わっています。レイ・ブラッドベリの短編「サウンド・オブ・サンダー」は、太古の地球に旅行して、うっかり蝶を踏んでしまったせいで、進化も含めたすべてが変わってしまった、という話でした。もといた世界とは別の世界です。つまりは、タイムトラベルは、その回数分のパラレルワールドを発生させるのです。

ですが、映画「夏への扉」では、タイムマシンの発明者がはっきりと、「パラレルワールドは存在しない」と言い切ります。そこまでに起こってしまったことは変えられないのです。そこで、30年後の未来で窮している主人公は、そこで集めた様々なデータで過去に何があったか推理して、過去に戻ってその推理からのシナリオ通りに行動します。

ただ、人間の選択によって未来は変わるものです。過去に戻ることも含めた主人公の未来は、もし「やらない」方に決めていたらどうなっていたのでしょう。タイムトラベルもやめてしまったら。過去に起こった事が無矛盾に収まる「別のこと」があったことになるでしょう。ただ、それだと過去に彼に会ったと言う人たちの証言がおかしくなります。タイムトラベルも含めて運命だったと考える他ありません。そう考えると、超越的な存在が、人間を駒にしてゲームをしているような気分になります。これが運命論というやつなのですね。

ずいぶん昔、ファンタジーは哲学の入り口になる、と書いた事がありますが、こういう事でした。架空の設定の中で思考実験を繰り返すと、本質的な様々のことが明らかになってくるって事です。ファンタジーが好きな理由のひとつです。

原作も充分に魅力的でしたが、映画では登場人物がとても魅力的でした。原作では主人公は未来社会で労働者として働いて情報を集めますが、映画ではヒューマノイドロボットのアシストで、それを短期間でやってのけます。原作にはない設定なので心配でしたが、想像以上に良かったです。Peteが「不気味の谷」をだんだんと超えていくあたり、ひょっとして「ターミネーター2」のオマージュでしょうか? そう言えば、過去へのタイムスリップの様子が「ターミネーター」そっくりでした。

主人公が山﨑賢人さんなのは、密かに気に入っています。「夏」が象徴するまぶしいような恋も、この愛すべき物語の大切な要素なので、天才エンジニアと純愛の両方が似合う人でなくてはいけませんから。

で、清潔感、透明感が少女の姿をしたかのようなリッキー=璃子は、清原果耶さんが素晴らしくて。ラストの、再会のところとか、原作ファンとしてはドキドキして待機していたのですが、想像以上の素晴らしさでした。ハインラインは昔の人なので、オールドアメリカ系の男尊女卑野郎っぽく時々筆を滑らせる嫌いがありましたが、そんなのは気配もありませんでした。伏線が見事に回収されて。大切な人はみんないなくなってしまう、という主人公に「私はいなくならない」と言った璃子の言葉が伏線でした。

時代設定はちょっと苦しく感じました。宗一郎くんの研究室の道具立てが妙に古くないですか? 1995年には32ビットのパソコンはあったはずです。80年代にはオフコンでのCADシステムが既にあって、現に私はそれでドームの観覧席の製作図をプログラミングして書かせています。あと、2025年=4年後に完全キャッシュレスは実現するでしょうか。二足歩行するヒューマノイドロボットも、ここまでの高性能なのは難しいかも。まあ、コールドスリープの会社自体が架空なので、ファンタジーということで。

それから、賢く勇敢な猫、ピートの可愛さは反則レベルです。そう、この子が適当な感じだと、お話が成立しないほどの重要キャストでした。楽しかった!

というわけで、原作ファンとしては、この映画、推します。

以上、感想でした。

 

では