エッセイ>憧れと慈しみ

ドラマ「着飾る恋には理由があって」が終わって1週間。ロス状態ではありますが、通しで見て分析する別の楽しい段階に入りました。

そのひとつ。葉山さんは真柴さんをどう思ってたのか。真柴さんが葉山さんへの片想いをバネにして7年間頑張って来れたことを感謝したのに対して、葉山さんが「片想いじゃなかったよ」の告白をするシーンがありました。ドラマ全編の中でも屈指の名台詞、名シーンかと。きゅんとする言葉ではありますが、過去形なのが深くて悲しくもありました。

でも、葉山さんにとって真柴さんに対する気持ちは、本当に恋愛感情だったのでしょうか。疑問を感じています。そもそも、人は人を愛するものです。でも、それが家族以外の異性だったら、直ちに恋愛感情なのでしょうか。こういう関係、巷では誤解をたくさんされているけど、恋ではない、もっと違う性質の絆ではないかと思うのです。

ザ・ファブル 殺さない殺し屋」でヒナコを演じられた平手友梨奈さんが20歳の誕生日を迎えられたのをニュースで報道していましたが、平手さんの両脇での岡田さん木村さんの見守る愛情をひしひしと感じました。「Growing Reed」での平手さんと師範の会話を聞いた後だったから、師範が平手さんという人を若い表現者として大切に思っている事が改めてわかりました。個人的な意見ですが、平手さんは、感性の尋常でない鋭さが若い頃の師範にそっくりです。物作りへの真剣さも。懐かしい感じがします。ここに恋ではない絆を感じるのです。

話は戻って、葉山さんの真意についてです。葉山さんの「片想いじゃない」は、真柴さんの片想いの正体が「憧れ」であり、反対に葉山さんはかつての自分を愛おしむように真柴さんを想っていたという意味だと思うのです。2人とも物への愛情が深くて一途なところがそっくりです。真柴さんはこのまま突き進めば、葉山さんと同じ軌跡を描いて成長していくでしょう。

一口に「似てる」と言うなら、様々な要素で似ている人間はいくらでもいますが、アイデンティティの部分で相似の相手はなかなかいません。その稀有な出会いが、憧れや慈しみの感情となるのではないでしょうか。

以前、個人的な感情として憧れの相手とは恋愛も結婚もできないと書きました。でも、誤解を恐れず言えば、自分を愛するように愛している、つまり大好きではあるのです。異性同士だと誤解されやすくて大変ですが。

以下、自分語り。

昔、大学の研究室でくすぶっていた私を自社にスカウトしてくれた建材メーカーの社長は、70代の高齢ながら好奇心でキラキラした目をして、新しい技術について質問責めにしてくる人でした。当時は、若手でもパソコンをよく知りもせず嫌悪感を露わにする人も多かったので、面白い人だな、と思ったものです。新し物好きで好奇心が強い、物作りには純粋、一度決めたら突き進む、エトセトラ。アイデンティティの部分でここまでシンクロする歳上の人は初めてでした。「老いらくの恋」と陰口を叩く人もいましたし、私も社内ではほぼ四面楚歌になりましたが、仕事では社長から直にたくさんチャンスや経験をもらえました。あの人に出会わなかったら今の私はありません。感謝してもしきれません。私の味方もしてくれました。結婚する時「辞めろ」の大合唱の中、社長が「狭い家の中で家事なんてどれだけあるの。大学まで出ておいてもったいない。働きなさい」と鶴の一声を発し、私は「はいっ!」と良いお返事。私の元夫の姓でしつこく「○○夫人」と呼んでくる社員たちに対して、「仕事上、トラブルの元なので旧姓で通すように」とも言ってくれました。この社長ですが、私が産休に入った直後急死しました。会社は後継者問題で荒れに荒れてガタガタになったところを、バブル崩壊の煽りで吸収合併され、大震災後に名前も消滅しました。「#着飾る恋」にその経験をつい重ねてしまいました。思った以上に社長以下の人たちに腹を立てていたんだなあと知りました。社長と思想を共有している社員がほとんどいなかったなんて、ほんと情けない。社長、大好きだったけど、でも恋じゃないですね、どう考えても。

恋といえば、以前、TOKIOの番組に「#きみのめ」の番宣に横浜流星さんと吉高由里子さんがゲスト出演されて、女性の言動が「好きアピール」かどうかシロクロ判定する、というのをやってました。「食べてる?」と気を遣って差し入れする行為について吉高さんは白判定していました。私も同意見です。でも、よく考えれば世話を焼きたくなるのはやっぱり相手が好きだからです。どうでもいい相手にはやらないでしょう。ただし、「キスしても怒らない好き」かというと、その確率は高くないと思うのです。この「キスしても〜」は、「エデンの花」からのパクリですけど、実に的確なフィルターです。

異性との友情は成立する、には賛否両論あるようですが、仮に友情は成立しなくても、現実として師弟愛は存在すると思うのです。性別を超えて人間の資質というものが存在し、種としてそれを受け継ぎ発展させていくのが人類のあり方だからです。

もし叶うならば、若い時の自分を見ているような気持ちになる若い人に出会いたいな、と思います。私は、社会的に力のある人ではないけど、トラブルが起こった時の対処の仕方は伝えられると思うのです。それで社長には少しは恩返しになるでしょう。

 

今日はここまで

では