映画「るろうに剣心 最終章 The Biginning」

ついに最後となる「るろうに剣心」のThe Biginning見ました。以下、ネタバレを含みます。

例によって、色々なこと考えてしまいました。

まず、これまでのシリーズで不殺を貫く剣心を見慣れていたから、躊躇することなく人々を斬殺していく剣心に心が凍りつきました。しかも、嗜虐性をまったく持たない殺人者なのがむしろ理解しがたく、恐ろしく、やがてこの時抜刀斎がまだ10代の少年だと知ってやっと納得しました。

いつぞや、「なぜ人を殺してはいけないか」という若者の問いにどう答えるか、というテーマが話題になっていました。識者と呼ばれる人の中にも、その問いをした者には自分が殺されることの想像が欠如している、と質問者の邪悪な心を捏造する人もいました。戦争と死刑が合法なのだから、殺人が絶対的な悪とは、国家レベルでは認めていないことになります。その上で個人による殺人【だけ】は悪、という筋の通った理由を誰かに教えて欲しいと願って、問題があるとは思いません。それを説明できない以上、世直しの美文に踊らされて法を犯す人間は、人が常に赤ん坊のまっさらな状態から人生をスタートする性質上、後をたたないでしょう。

今日までも世界のあちこちで戦争は続けられています。たくさんの映画が、戦争で心や人生が壊れてしまった者の悲惨さをこれでもかと描いています。でも、戦争に赴く者は無くなりません。その理由が、剣心が暗殺者になった動機と被ります。ひとつには、その天分によって若くして誰よりも強かったからなんですね。そして戦うための「正当な」理由が尽きないからなんですね。幕府側、志士側、両方とも自分が正義、相手が悪と言い、どっちももっともらしいのはお約束です。もし剣心が別の縁で新撰組に入っていたら、斎藤一と同じような人生だった確率は高いと思います。そう、あの斎藤一は幕府側でした。すべての答えは、戦いが終わって決着がついた後にわかるものなんですね。否、決着のし方次第で、答えが決まる、です。その上で、新政府は闘いの真っ最中でやらかした汚い事を無かったことにするために、実行犯たちを冷遇し、それが前作までの物語の骨組みになりました。

ところで、映画制作の裏話によれば、今回の殺人殺陣は、不殺の剣での殺陣よりずっと楽だったそうです。実際、相手の動きを封じつつ致命傷を与えないのは、斬殺するより遥かに難しいでしょう。

今回の殺陣を見ていて、ハイスピードでずいぶん的確に相手の頸動脈を絶っているな、と感じました。太い動脈が皮膚の近くに通っているのは人体の5箇所。これを絶たれたら助かりません。でも、躊躇わずに淡々とこれができるのは、どういう心なのでしょう。マシンのような。別コミックの殺し屋ファブルが相手の脳か心臓を的確に一発で撃ち抜いて即死させるのを思い出しました。そう言えば、ファブルも不殺で戦うのでしたね。

高校生の頃、剣道を始めてしばらくして「言い訳したところで、つまりは模擬殺し合いじゃん」と思っていました。色々あって。活人剣というのは、戦のなくなった江戸時代、柳生新陰流の唱えた思想で、以降の時代はそれに倣っています。今日の剣道はその末流です。「元は殺し合い、今はスポーツ」とは、スポーツの多くの成り立ちでもあるそうですが、武道はその殺し合いをリアルに想像させる形をしているため、武徳を積むことを必須としたのだと思います。活人の思想もその一部でしょう。でも、それもすべてのバランスが保たれている間だけ。きっかけ次第であっという間にダークサイドに落ちるのが武。雪代縁が、神谷道場の額を見て「くだらん」と吐き捨てる理由はそこかと思います。高校生の私も感じた「活人」の中にある矛盾を、真に決着させる論は、まだこの世に現れていないのだと思います。「なぜ人を殺してはいけないか」の問いに「これだ」という解がまだ現れないのと同様に。

雪代巴の存在が、機械のようだった剣心を人間らしくしてくれたのだとあります。許嫁を殺害した剣心に復讐する為に近づいたものの、剣心に惹かれるようになって、護るために死んだ、と。縁には姉は、許嫁との幸せを奪われた上、正体がバレて始末されたとしか見えないでしょう。縁にしたら、母親を2度なくしたも同然。みんな可哀想。何をどう分かったら、許されたのやら。

とは言え、人間の心を持つに至った殺人機械は、過去の自分のやったことに苦しむことになります。つまりは、巴の復讐は成就し、しかも剣心を愛するが故に生かしたい気持ちも成就したわけです。すごい女性です。

最後、巴の亡骸を家ごと燃やしてしまうのですが、映画「ワイアット・アープ」「ギルバート・グレイプ」を連想しました。大切な人が亡くなって、その人を思い出すものも含めて全て消して区切りをつける心理と言いますか、それだけかけがえない存在だったのだと思います。そんなディテールにいたるまで、それまでのシリーズのお話と比べようもないほど、救いのない悲しいお話でした。

まとまっていませんが、感想でした。