名付けの話、つれづれに

俳優の松坂桃李さんと戸田恵梨香さんがご結婚されたということで、おめでとうございます。

松坂さんは、「軍師官兵衛」で官兵衛の嫡男 黒田長政を演じられていて、これがあまりに素晴らしかったので好きな俳優さんの一人です。とても珍しいお名前だと思っていたら、Wikipediaで「桃李もの言わざれども下自ずから道を成す」「桜梅桃李」の二つの意味があるのだと知って、ご両親の愛情と知性に感動しました。「芸名のような本名」ランキングでも上位でいらっしゃるようですね。お名前も含めて好きな俳優さんです。

 

その「芸名のような本名」には、「私たちはどうかしている」の主演お二人、浜辺美波さんと横浜流星さんもランクインしています。調べてみたら、浜辺さんも横浜さんも珍しい姓なんですね。ワードとしては聞きなれたものなのに。全国に「浜辺さん」は約5200人、「横浜さん」は約3700人、だそうです。

浜辺美波さんは、姓名一体で一幅の絵のようです。美しい人にぴったり。

 

横浜さんは・・・気になってネチネチ調べちゃいました。「横浜」という地名はWikipediaによれば日本に15か所あるそうですが・・・「横の」「浜」ですもんね。・・・最も有名な神奈川県の横浜市由来の「横浜」姓というのはないようです。弘治元年(1555年)に下北半島横浜町を統治した七戸慶則が横浜姓を名乗ったのが発端ということです。ちなみに横浜町はamazarashiのボーカル、秋田ひろむさんの出身地でもあります。

言われてみると確かに、横浜さんの切れ長の涼しい目とか、鼻筋の通った彫の深い顔立ちとか、睫毛が濃くて長いところとか、北の国の人のそれです。

それから「流星」というお名前ですが、「本当かどうかはわからないけれど」という前置きで、お父様が名前を考えている時に流れ星が流れた、というエピソードを語られていましたね。1996年の9月16日は、新月から数えて3日目の月。全国的な快晴に恵まれていますから、星空のくっきりと見える中に流れ星が見えた、というのは状況証拠からは有りです。

流れ星は古今東西で吉兆と凶兆の両方の言い伝えがあります。「マッチ売りの少女」にも「三国志」にも出てきます。私は、たぶん今までの人生で五回も見たことがありません。でも、動かない前提の天体が一部光って流れるのを見た瞬間、何かが変わるという強い予感がしたのを覚えています。そう思わせる何かが流れ星にはあります。吉とか凶とかは置いても。夜道を足元を見るだけじゃなくしっかり顔を上げて歩かないと出会えないものだってところも、何か意味深いものを感じます。

というわけで、素敵なお名前をお持ちですね。演技もお名前も含めて、好きです。

 

子供が生まれた時に名前を考えるのとは異なり、物語を作るときに登場人物の名前を考える、というのはまた別の面白さと難しさがあるかと思います。

「きみの瞳が問いかけている」の登場人物の名前は、映画がはじまって二人が登場してからも、なかなか名乗り合わないところが、割と伏線でした。

監督のお話によると、「塁」というのは、MBAの八村塁選手からとられているとのことでした。フランス圏の男性の名「ルイ」の原義は「名高き戦士」だそうです。本当にぴったり過ぎてびっくり。「アントニオ」はラテン語の「アントニウス」から来ているそうですが、語源は不明とのこと。「強そう」というのは同感ですが。シスターは絶対にアントニオ猪木に影響されて、強い男の子の塁につけたんだと思うし。

「明香里」という名は、監督が説明されていたように、文字通り「灯り」のようであれ、という願いが込められていて、なおかつ香という字を入れて、視覚障害を持って香りに敏感なことを表現した、ということです。最初、視覚障害を持っているのに「あかり」という名前は皮肉だと思ってしまいました。視覚障害者の蔑称「めくら」は「目が暗い」から来ているくらいです。それでも存在そのものが灯りのようで、塁を照らしてくれるところが、関係としてとてもフェアだと思うようになりました。

名前も実も、強い男の人と、暖かい女の人のカップル。良いですね。

 

次に、「私たちはどうかしている」の主人公の名前ですが、対になっている名前なので、よくできたパズルのようで楽しいです。

七桜という名前ですが、DNA鑑定書の七桜の誕生日は4月3日となっていました。桜の満開の時に生まれた確率が高いです。両親もいない百合子お母さんが樹さんにも頼らず、たった一人で産んで名前もたぶん一人でつけたのだろうと思いますが、単純に「桜」と名付けずに、「七つの桜」と書いて「なお」と読ませたのは、和菓子職人ならではの深い意味があったのかも知れません。後に七桜が結婚を間近にした友人のお祝いに「葉桜」を模したお菓子を作ったこととも通じます。「七」には「すべての」という隠れた意味があります。「七つの海」「七不思議」「七福神」など。人間が見て「ひとつ、ふたつ・・・」と数えずにぱっとわかる数の上限、という説もあります。桜のすべてのあり様を体現する人、という意味での「七桜」。美しく、逞しく。

椿くんは、女将が、樹さんと百合子さんの間に子供ができて、離婚を求められたので、対抗措置として不貞の上できた子、ということでした。それでいくと、鑑定書の5月2日生まれというのは日が合いません。それは置いても、椿の花が満開の2月頃とはまったく季節違いなのに、なぜ椿と名付けたかというと、名門の出の女将が代々伝えられた着物の柄が椿だったという、ちょっと意味がわからない理由でした。和菓子の題材によく使われるものだとしても。

椿の花言葉は「謙虚な美徳」をはじめとする美徳のシンボルのような言葉ばかりです。ところが、小デュマの「椿姫」の影響で、裏花言葉として「罪を犯す女」というのがあるそうです。こんなところに物語の根底に流れるものを感じます。

ドラマの椿くんは凛とした佇まいが名前に合ってて素敵でしたけど。

 

以下自分語りです。

 

私は8月生まれで「涼子」という名なのですが、昭和30年代では割と珍しい名前でした。母親によれば、残暑厳しい中で生まれたので、涼やかに、ということでした。

暑いから涼しく。悪くはないですね。不足している物を補うより、過剰なものを減らす方がはるかに難しいって言うので。

芸能人だと、米倉涼子さん、篠原涼子さん、広末涼子さん、国仲涼子さんがいらっしゃいますが、Wikipediaで調べたら全員夏生まれなのがわかって楽しくなって笑っちゃいました。

ところが、実際に名付けた父親が、実は当時連載していた雑誌小説のヒロインからとったと話しているのを聞いてしまいました。それは男性遍歴する女優の名前だったので軽くショックを受けたものですが、父親らしいので納得しました。そっか、強い女が好きなんだよね、ぶれないね、と。私はともかく父親が好きだったので、自分の名前も好きです。

 

うちの娘の名前は私がつけました。娘がお腹にできたことにまだ気づかなかった頃、天使に「あなたに女の子をあげる」と受胎告知される夢を見たので、これにちなんでやろうと野望に燃えていました。母親が子を特別な存在だと思って何が悪い、外にアピールしなきゃいいだけの話、と。なぜ野望かと言うと、当時の夫の男尊女卑っぷりからしていって反対するのは目に見えていたからです。当然、夢の話もしていません。元夫には「女の子らしい柔らかな名前を」という彼が喜びそうな嘘をつきました。

始めに決定したのは「ゆり」でした。この名前で新生児の娘を呼んでいました。娘は7月生まれなのですが、7月のJulyは、ユリウス・カエサルの名から来ています。ユリウスとは「ジュピターの子」の意。神の子、です。なので「ゆり」。

ところが、元夫の親戚にそれと同じ名で若死にした者が二人もいる、ということで縁起が悪いとクレームがつきました。NGネームがあるんならなぜもっと早くに言わない、とイライラしたものの、抗議しても無駄なのはわかっていたので諦めました。

次に決めたのが「えり」です。言うまでもなくヘブライ語の神の名です。ところが、それは親戚に「リエ」というのがいるから駄目だと元夫からクレームがつきました。音の順が違えば意味が違うのが言語というもの。抗議したもののあえなく却下されました。

ここまで来たら、子供の名前をだしにした単なるモラハラだということはわかっていたのですが、娘の人生がかかっているのだからいい加減なところで手を打つなんてできません。

ついにアイデアが天から降ってきて、フランス語で聖母の名前を綴り、それをローマ字読みした名が娘の名前になりました。

娘は自分の名前がすごく気に入っていると言ってくれます。

我が子ながら素敵な女性に成長してくれたので、言うことありません。

 

子供の名づけには、それぞれ深い物語があるに違いありません。当然ですね。

どんな発想で、どんな願いを込めて名付けたのか、ひとつひとつ聞いてみたい気がします。

今日はここまで

ではでは