『アンフェア』

舞台『天保十二年のシェークスピア』を観劇したときに、篠原涼子さんをはじめて生で拝見した。びっくりするほどきれいなので、びっくりした(笑)。白磁ティーカップみたいだと思った。つやつやぴかぴかで、きゅっと小粋で、いわくいいがたい気品があって、ほんのり色っぽい。そんな篠原涼子さんの魅力全開『アンフェア』、初日で見てきた。もう最高。

ドラマの方は、仕事が忙しくなってあまりテレビを見なくなっていた私に、娘が「すごく面白いドラマやってる」と教えてくれたので、三回目あたりから見て、最終回まで連続して見た。本格的なミステリーのドラマなんて久しぶりだ。登場人物のすべてが怪しく見えるのが、とてもアンフェアな感じ。しかも、「この人だけは真犯人じゃありませんように」という人がまさしく真犯人で、おまけに納得いく動機が影に隠されていて、今までの行動すべてが伏線になっているのも理解できて、完全にノックアウトされてしまった。
映画では、さらにみんな怪しく見える。サブタイトルが、信じられるのは自分だけ、とあるけれど、本当にそういう感じで、手に汗握った。だけど、最後に、それがすべて回収されていくのがさっぱりとしてて気持ちいい。このあたりの緻密さが好きだ。

それから、主人公が魅力的なのは、ドラマ成功の大切な条件だけど、この「魅力」ってやつも、つかめそうでつかめない、よくわからないものだったりする。でも、本当に魅力的なのだな、この主人公は。刑事にしておくのはもったいないほどの美女、だけどそれについての自意識がほとんどゼロ。若い男性の前で平気で裸になるわ、大酒飲みだわ、部屋は汚いわ。それでも、立ち居振る舞いすべてがかっこよく、言動がすべて筋が通っているがゆえに型破り。今回は、アクションや銃撃戦もふんだんにあって、かなり楽しめる。その上、美女でありながら、クールな仕事人間、という魅力に加えて、娘を愛する母親という面も加わって、魅力爆発だった。強くて優しいお母さん。子供を助けるためならどんなリスクも負うし、氷のようにクールにもなる。だけど、子供にはあくまで優しく。私のストライクゾーンのど真ん中に決まった。

あと、殺人被害者の白テープの人型の上に自分が寝て、被害者が最後に見た風景を見ながら「きらきら星」を歌う、不思議な儀式。原作では、その儀式についてしか述べられていないそうだが、ドラマでは、そこにどんな事情があるのか視聴者になんとなく想像させる仕組みを作った。それが膨らんで、連ドラ終了のあと、スペシャル、そして今回の映画へと繋がっていく。この儀式とは、この雪平という女性刑事が、被害者に強く感情移入する人物であり、それがゆえに犯罪を誰より憎む人であることを示している。必ずしもそういうモチベーションでは動かない警察。結果、はみ出し刑事。それを踏まえると、「アンフェア」というタイトルは、なるほどそこまで行き着くのか、という映画の筋立てだった。憎しみは連鎖する、という言葉が深い。

ところで、余談だが、死ぬときに、いわゆる「畳の上」ではなくて、外で死ねて、運よく仰向けだったら、大好きな空が、私が見る最後のものになるのだな、と気づいた。青い空が一番だけど、夕焼け、雨空、星空、闇の空、どれでもいいや、ともかく空がいい。「病院の天井が一番確率が高いけど、それは嫌だなあ」と言ったら、娘が「私の顔のどアップはいかが?」と言う。そりゃ願ってもないことだ。空より格段にいいかも。だけど、すぐにいろいろ取り越し苦労がはじまって「あんまり泣いちゃだめだよ」とか、いろいろ心配事を口にしてしまうのだった。

いのちは大切に。一日一日を大切に。当たり前だけど、そんなことを映画の最後に思った。