『天国は待ってくれる』

土曜日、仕事を定時に終えて、二本続けて『天国は待ってくれる』と『ドリームガールズ』を鑑賞。「疲れるかな?」と思ったけれど、『天国~』を先にしたのでまったく問題なく楽しめた。まるで『天国~』をオードブル扱いにしているようで申し訳ない。どちらかというと、『ドリーム~』の方が、体力気力が落ちていると到底消化できないほど高カロリーだったせいだ。
オードブルと言うには、人間の死とか友情とか家族とか、軽くないテーマだ。個人的には、どろどろの愛憎劇の方が親しみ感じちゃうけれど、まあ、それは私の性格の歪みゆえってことで(汗)。ともかく、悪い人が一人も出てこない。……お約束のいじめっ子の中学生がいたけど…… 内心悪意を持っている相手にこそっと笑えない嫌味を言ったりするような人すらいない。リアルの世界では考えにくいが、築地という場所が大都会にあっても濁りのない人たちを育むことができる場所だからかな。しゃれてはいないけど活気に満ちている街の描写が丁寧に繰り返されているので、そう思った。食べ物=生き物を扱っているせいかも知れない。井ノ原さんも、岡本さんも、清木場さんも、見るからにいい人そうだ。ちなみに、井ノ原さんの、「あと一ヶ月……ぐらい」がベストアクトだと思う。
その築地で育った仲良し三人組。三人が出会う小学校の教室のシーンは、ある意味、三人が特殊なフィーリングを持った人間であったことを示している。優しさと勇気をはんばなく持った子供たち。あの子役の女の子、かわいいな。はみ出しっ子同士が仲良くなっていくドラマとしては、私の中では「IT」が最高峰だ。つまり、はみだしている人間には、何か普通でないことをして欲しい。だけど、ここで描かれていることは、「普通にしていることが普通でない」みたいな、逆説的なことなんだと思った。それはそれで悪くはないけど……なぜ女の取り合いをして戦わん!とか思っちゃうのは、ひとえに私の性格の歪みですとも、はい(汗だく)。それじゃ、違う話になっちゃう。

さて、脚本家の岡田恵和さんのオリジナル・ストーリーである。岡田さんと言えば、私が通信教育を受けたシナリオ・センターの通学科出身である。通信生は、二週間に一本のペースで課題提出となるが、通学生は毎週だ。それを岡田さんは皆勤賞で卒業された。実際に課題を書いてみた経験からすると、驚異的なことだ。また、脚本家の山田太一さんのシナリオを書き写して勉強されていた、というエピソードが会報で紹介されていた。大いに納得するところである。会話の裏側にこめられたものの存在を感じる言葉選びとか。

もうほとんど確信に近いのだけど、文字だけで表現された物語は、イマジネーションを働かさないといけないけど、映像だと全部「見えて」しまうから、云々、というのは真実ではないと悟った。文字と映像は、それぞれのイマジネーションのポイントが対称の関係にあるんだと思う。文字では直接表現できても、映像だとできないもの、それは他人の心だ。それは技術を要すし、受け手のイマジネーションを前提とする。実際、街を歩いていても、他人が何を考えているかなんてわからない。だけど、私が考えているように、他人も何か考えていることは確かなことだし、私が他人の心が見えないように、他人からも私の心は見えないんだ、と。これって、当たり前のようでいて、何となく暮らしていると、つい忘れがちになって、つまづいたりする。なのに、これを物語りにすると、あら不思議、見えないはずの心が見えてくる(ような気になる)。その意味で、一人の若者の事故を例外にして、一見穏やかな日常の中で、さまざまに人々の心が動いていくこの映画は、ドラマとしてひとつの王道かな、と思う。