『イルマーレ』

個人的には恋愛物は守備範囲外なのだが、主演がキアヌ・リーブスだし、予告編がなんだかとても面白そうだったので、見てきた。物語世界は何の変哲もない日常だけど、たったひとつだけ、非日常があって……そういう仕掛けのファンタジーには良質のものも多い。時空を隔てて誰かと交流する、というお話だと、『アメージング・ストーリー』などでも見たことがある。だけど、この二人の『つながり』というのは、真のパートナーとの出会い、運命の恋、という要素が強くて、私にはポイント高かった。出会いというのは、本当は偶然ではないんじゃないか、と思うときがあるから。
確かに、湖の中に支柱を立てて、全面ガラス張りで作った家なんて、「不便だ」「プライバシーがない」と友達でなくったって止めに入るものだろう。だけど、一人でいることや、自然が好きで、この家から美しい自然の風景を「自分のもの」にしているんだと感じることができる人には、最高の家だ。この土地、この家に住むことを決断する、というだけで、既にふるいにかけられていることになる。

ところで、韓国映画のハリウッド・リメイクだということで、『イルマーレ』とは、『海の家』という意味のフランス語で、オリジナルの二人を繋ぐ海辺の家をさす。それがハリウッド版では湖畔の家になっていて、原題も『The Lake House』である。オリジナルの題に対するリスペクトか、二人が待ち合わせを約束するレストランの名前が『イルマーレ』だった。小さなエピソードがタイトルになっているので変な感じがしたものだったけど、そういういきさつがあったのか。『イルマーレ』という響きは美しくて好きだが。いずれにしろ、どちらの映画にも『家』が大きな要素であることは間違いない。
フランク・ロイド・ライトゆかりのシカゴの街。ライトはここから出発して、世界の巨匠の一人になったのだった。ヒロインのケイトは、アレックスの手描きのガイドをもって、シカゴの街を歩き回る。古い街の美しいところがいくつも発見される。開発が進んでいる街中で、「木が恋しい」とケイトは言う。アレックスは木の苗を植えにいく。そういえばライトは、自然と融合させた住宅を提唱した。二人の湖の家など、まさにその流れを汲むものだ。そして、ライトを思わせる、ジャケットがよく似合った、銀髪の老紳士といった風情の建築家。建築物の模型を前に立っているシーン。ライトのそっくりな写真がある。
その建築家と息子であるアレックスの確執を見ていると、何となく「もう進歩ばかり押し付けられるのは嫌だ」というアメリカ人の一部の人たちの声が聞こえてくるような気がする。気のせいだろうけど。

「街」や「自然」や「建築物」が主人公で、その周囲を人間たちが生きている、という雰囲気の映画が最近好きになってきている。その意味で、とても堪能した。