『RIZE』

ダンスが好きな娘に付き合って、ワーナーみなとみらいで見てきた。
実を言うと、見て楽しいか、面白かったかと聞かれると、少し困ってしまう。
こういうドキュメンタリーの映画に慣れていないせいもあるのかも知れない。
『つくりもの』の安心感がない。

映画の中で、銃で撃たれた腕の傷跡を青年が見せてくれる。
それは、紛れもなく、治安の悪い居住区で、通り魔から母親と弟をかばって撃たれた痕跡で、
メイクではない。
その青年がその話を淡々と語る、『素人』っぽい表情は、踏みつけにされた人の、『本物』の顔だ。
少年少女が、道を渡っていると、突然車から銃撃されて死ぬ。
特別な理由もない。
「誰かに顔が似てたとか、そんな理由かも」とインタビューされた若者がこともなげに答える。
それが当たり前の日常。
アメリカの低所得者層の居住区の日常。

人間の魂から鉱脈を掘り出すためには、不幸というものが必要なのだ、
というのは、『モンテ・クリスト伯』の一説だ。
そして、アメリカのこういう日常の中から掘り出された鉱脈は、
美しいとかどうとか、そういうこととは違う次元で迫力だった。
目が追いつかないスピードで人間が踊る。
セクシーだとか、ワイルドだとか、そういう感想を抱く暇もない。
クロバットを見ている時のような、爽快感を味わっている暇もない。
わくわくどきどきとはまったく違う。
ただ、あっけにとらわれて見入るばかりだ。
宗教的なこころのポジションに近いものがあるかも知れない。
ダンスは元々が宗教からはじまった、というのが、
アフリカの民族のダンスの映像を混ぜているときに、
とても納得いった。

人に見せるための踊りではないから、美しいか美しくないかは問題ではないかも知れない。
それでも、終盤あたりで、男性女性ダンサーが、体にオイルを塗って踊るのを
スローモーションで映しているのは、心から美しいと思った。
ヒップホップやブレイクダンスのように、
これからの時代を作っていくムーブメントになっていくことは間違いないと思う。

パンフレットには、この映画の背景についてもっと突っ込んだ話が書かれているので、
それを読んだ後には、もっと考えも深まるだろうけど、
今は、こんな印象を抱くのがせいいっぱいだ。

終わって席から立ち上がろうとしたら、どうしたわけか腕や足がひどく痛んで、
すぐには立ち上がれなかった。
映画に見入っている間に、体の中で一体何が起きたというのだろう。
そんなはじめての体験をした映画だった。