映画>「おと・な・り」感想(ネタバレあり)

さてさて、昨日火曜日、少し早めに仕事が終わったので、横浜の109シネマに直行して、映画「おと・な・り」を見てきた。
本当を言うと、がっかりしたくなかったので、まったく期待しないで行こうと決めていた。
情熱大陸」で麻生さんが出演しているのを見て「いいなあ」と思ったので、女優力だけは期待していこう、と。
「つまんない時は、寝ちゃえばいい」というありがたいアドバイスもいただき、融通のきかない私は例によって、「その手もあったか」と目からウロコが落ちて、出かけていった。
そのせいかな。最初から最後まで退屈せずに、面白く見ることができた。
ジャニーズの俳優が演じて、単館系の映画の良さを、果たして出せるのか、とも思ったけど、杞憂だった。
とても良かったと思う。
設定がわざとらしくないのが生きている。
岡田くんはカメラを持っている姿がとってつけたようではないし、麻生さんも花を扱っているところが手馴れている。
でも、それだけではないようだ。
是枝監督の「誰も知らない」でハンドカメラを使って、ドキュメンタリーのような味わいを出していたけれど、この映画も部屋の中の人物をハンドカメラが追う。 
日常のスケッチが、ホームビデオのような、自然で、でもちょっと照れくさいような画像で映し出される。
あと、早い段階で気がついたのだけど、普通の映画よりずいぶん音がたくさん出てくる。
ひとつひとつ、とても意味深いものを感じる。
確かに、普段は忘れている感覚だ。
終わってから音楽があまり使われていなかったような気がしたのだけど、確証はない。
でも……私は、やっぱりこんなに隣に音が筒抜けのアパートは嫌だな(笑)。

人間、三十代ともなれば、二十代の頃にはなかった悩みがいろいろと吹き出してくるものだ。
女性の場合は特に、結婚・出産など、人生の一大イベントのタイムリミットが、男性よりきつい。
それを描く、というテーマだと、どうしても数あるドラマとかぶるので、斬新さはないかも、と思いきや、それぞれ立派に仕事をしているのに、どこかすっきりしないものを感じている、その細やかな心情がきちんと描かれていて、自分の身に照らして、とてもリアリティを感じた。
特に、麻生さん演じる七緒とコンビニの男性とのエピソードでは、男性が自分の鬱屈した感情を、30代の女性に醜く投影するところが、とても残酷に描かれていた。

ところで物語のラスト近く、二人は実は同郷の同窓生でした、という縁がわかる。
広い東京に出てきて、こんな偶然、あるわけがない、とも思う。
だけど、映画『イルマーレ』と同じく、このアパートに住む、というのは二人がとても相似形のメンタリティを持った人間である証だし、それは二人の原体験が、故郷にあるせいだ。
それも、故郷の自然に。
だから、偶然ではあるけれど、ちょっぴり必然を含んだ偶然。
それが、すれ違って終わっちゃうのかなあ、と思ったら、ちゃんと出会えて、ハッピーエンドロール、だった。
もう、気を持たせちゃって。
これは、かなりおしゃれな終わり方だと思った。
そう言えば、「イルマーレ」も、最後でやっと出会ってハッピーエンドのラブストーリーだった。
これは、なかなか気持ちいい。
こてこてのラブストーリーが苦手な人にもお勧めする。