DVD>映画『カミュなんて知らない』 他ドラマ等

藤原竜也さんが出演したドラマの内、『凍りつく夏』が名作だという意見が多かったので、ネットオークションで手に入れて見てみた。先々週のことだ。
子供の虐待をテーマにしたドラマというと、『永遠の仔』がはしりだと思っていたのに、こんなのがあったなんて、今まで知らないできた。実際、虐待されると子供は「どうなるか」という点については、相当な取材の上に緻密にお話を作っているようで感動した。こんな風に、重いテーマを広くテレビを通して訴えるためにサスペンス仕立ての物語にする、というのは、ひとつの有効な手かも。虐待される三人の子供たちの演技がリアルだ。よくぞここまで、という感じ。末っ子を演じた、まだ16歳の藤原さんが素晴らしい。あの微笑を見ていて、子供の頃の妹を思い出して切なくなってしまった。暴力が日常的な家に末っ子に生まれてくるなんて残酷な運命だと、今になってしみじみ思う。藤原さんのおうちは、家族が仲良しだと伺ったけど、それにも関わらず演出に応えてここまでリアルに表現できるなんて、なんて素晴らしい才能だろう。

ところで、この中で長男役を演じていた柏原収史さんを私も娘もとても気に入って、例によってネットで調べて、代表作の『カミュなんて知らない』を借りて見てみた。『凍りつく夏』で絶賛された柏原さんの虚無感の表現力が、この映画ではまた別の形で表現されていた。さて、舞台は大学。そこで、理由なき殺人をテーマに、映画を製作している大学生たち。お話のベースにカミュの『異邦人』を据えつつ、『アデルの恋の物語』『ベニスに死す』へのオマージュも絡めつつ、彼らの日常もまた、意味のなさ、理由のなさに満たされていることが淡々と綴られていく。映画の中の映画。映画を撮っている映画。それらが虚と実となって交錯していく。そして、ショッキングな結末。なんて軽すぎるいのち。
人間存在の不条理は自明なのかも知れないけれど、それをただ放置したままにしておくのは、とてもグロテスクで耐え難く、「何とかしなきゃ」という気持ちにさせられるものなんだと、映画という疑似体験の中で痛感した。本当に、自分をしっかり持って、きちんと生きなきゃ。

また、娘と、この映画についてかなりディープに話し込んだ。娘は専攻が環境生命なので、そっちからのアプローチが面白い。たとえば、脳科学者の池谷裕二さんの著作の中に、人間の自由意志についての興味深い記述がある。人間が感情にとらわれることは意志の仕事ではない。だけど、それを抑制するのは意志の仕事だ。表現は違うし、少し意味がずれているかも知れないが、こういうことが書かれていた。言われると、確かにそうだ。自分の感情が「自然に起こったこと」というのが行動の理由にならないのはそのせいだ。「ついかっとなって」なんて言い訳を許してはいけないんだと思う。大人であれば、自分をコントロールする責任は最後まで伴うだろう。いや、自分をコントロールすることに責任を持たないでいると、他からのコントロールを退ける力が弱まって、自立できにくい体質になってしまうのだろう、と思う。社会的な負荷の偏りが、それを促してしまっている。

ところで、カミュと言えば、中学生の時に、夏休みの宿題の読書感想文で『異邦人』を読んで書いたことがある。難解ではあったけれど、これ以上はないというくらい真剣に読み込んで、考え抜いて、書き上げた。ところが、他のクラスメートの作文には数行のコメントを書いてきた国語教師が、私にはたった一行「中学生らしい本を読みましょう」と書いてきた。中学生らしい本て、どんな本だろう。未だによくわからない。今でも鮮明に覚えているところをみると、かなり傷ついたらしい。教師の悪意には慣れっこだったのに。その反動で、カミュの『反抗的人間』と『シジフォスの神話』を続けて読み、とりあえず、カミュは人間にも人生にも意味なんてもともとない、と考えていることだけは理解した。あれから一度もカミュを手に取ったことがないけれど、最近、蜷川さん演出、小栗旬くん主演の『カリギュラ』の映像をちらっと見て、あの頃胸に湧き起った虚無感をふいになつかしく思い出した。「意味はもともとあるわけではない」というのを単純に「人生は無意味だ」と短絡してしまう年齢なんだな、思春期というのは。うん、「らしくない」というより、「お酒と同じく、まだちょっと早い」ということだ。「意味」はもともとない。だけど概念として確かに存在する。つまりは、意味は創造・生成されるものなのだ。

話はまったく変わるけれど、藤原さんが『カイジ』なる映画にクランクインしたとか。ギャンブラーの話? ちょっと前に、藤原さんがパチンコをしたという話を聞いて妙な気持ちがしたけれど、そういうのは役作りのため、ということが多いというファンの方たちのお話だった。本当にその通りだったので、感心した。本当にファンというのはよく見ているものだ。また、少し前に、藤原さんが某雑誌に、最近見た映画で一番良かったのは『陰日向に咲く』だと答えていて、その理由が群像劇でやったことがないものだから、というのに、「何か匂うな」と思っていた。あれは、ギャンブル狂で、借金取りに追われる、情けない男性の話を役作りの参考に、という理由だったのでは? こういう推理は楽しい。
何だか、藤原さんて、面白い人だ。何が入っているかわからないプレゼントの箱をあけているような、わくわくする楽しさがある。前は、岡田くんに操を(笑)たてて、同年代の男優にはあまり目を向けないようにしていたんだけど、最近リミッターがはずれて、楽になった。これからが楽しみだ。仕事、がんばろうっと。