はじめに

企画というか、新しいことを考えて、それを実現させるための計画を立てるのは、かなり好きな方だと思う。
プロジェクトを立ち上げて、それを実現させるためにいろいろ段取りを考えたりする能力も、かなりあるほうなんじゃないかと思う。
いざ、実現させるために、現れてくるトラブルをひとつひとつ解決していく能力も、まあまあある方だということに、やってみて気がついた。
ただし、企画を進めるために必要な、コミュニケーション力というものが、文や表を書く枠の中にとどまり、口頭での力が極めて低い、という致命的な欠陥のため、実際に大勢で仕事をするような場では使えない……と思っていた。
しかし、世の中には、企画書だけを売る、という仕事がある。それ以前のアイデアだけ、も。
なんでこういうことに気がつかないでいい年になっちゃうかな、おばさんは。

今までだって、「岡田くんにこういうのがきたらいいのに」なんて漠然としたことを言うのじゃなくて、「これは使えそう」ぐらいのしっかりした企画書を書いて、ここでオーブンにすればよかったじゃないか、と。
映画の企画に限らず、「こうしたら」とか「こういうのがあったら」なんてものは、案外いろいろあるものだ。たいてい書かずに忘れてしまうだけ。もったいないから、書く癖をつけることにした。

以下は、映画の企画書の講座で、「四人の女子高生を主人公にした、チャレンジ物」というお題で書いてみた修作だ。参考のためにアップしてみた。




旅立ちの日に   2005年10月15日

[企画意図]

ティーンエイジ。それは、子供たちが自分の力で飛べる大人になるための、最終レッスンの季節。
少子化や離婚の増加、ゆとり教育の揺り返しなどで、現代の高校生たちは様々に揺れています。未来は霧の中です。
また、子供たちが置かれた境遇には、その子の親が置かれている社会的地位が大きく影響しています。親や周囲との葛藤は、めまぐるしく移り変わる社会と同期しています。
それらすべてを乗り越え、羽ばたこうとする若さ、力強さ、傷つきやすさ、絆の美しさを、四人の少女たちの姿を通して描きます。

舞台は、関東圏のとある中高一貫の女子校。
一人は、離婚してキャリアウーマンとしての道ひとすじに行き始めた母を持つ、内に秘めた情熱を持ちながら殻の破れない少女。
一人は、ハンディのある両親を支え、持ち前のパワーでぐいぐい周囲をひっぱっていく、本当は淋しがり屋の少女。
一人は、有名校の受験に失敗し、心ならずも滑り止め校として入学してきた、すね者の少女。
一人は、中学からのエスカレーターで入学してきた、過保護の両親に守られすぎて、優しいけれど自信がない少女。

彼女たちは、高校入学と同時に出会い、ふとしたきっかけで、ダンス部を設立することになります。彼女たちはダンスを通して、ありのままの自分に目覚めていきます。そして、彼女たちの変化は、周囲の少女たち、大人たちをも変えていくのです。

なぜダンスでなければなららなかったか。競争でもなく、鍛錬でもなく、娯楽でもない、何か美しく真摯なもの。孤独な魂を抱えた四人の少女たちのそれまでの人生に、決定的に欠けていたものでした。

コンクールを目指して、一丸になって取り組んでいた矢先の、一人の少女の突然の死。残された少女たちは、それをどうやって乗り越えていったか……。感動のクライマックスまで、音楽とダンスと、四季折々の色彩溢れる映像で綴ります。
 
[登場人物]

柴田奈津(16~18)	離婚してファッションデザイナーとして働く母を持つ。子供の頃から、大人に甘えたい気持ちを、遠慮して抑えてばかりいる。内気で無気力に見えて、どこか誇り高いところもある。ダンスが、もっとも自分を解放できる言語であることに気がつく。生まれながらの表現者。
いざ、という時になると、別人のように力を発揮する、『本番ガール』。

和田雪野(16~18)	聴覚障害のある両親を持ち、人前でいつも明るく振舞う頑張り屋。しかし、将来への不安も人一倍大きく、一人になった時に寂しさに押しつぶされそうになる。口がうまく、押しが強いため、交渉・折衝を得意中の得意とする。コンクールを目前にして、両親の心中について逝ってしまう。享年18歳。
別名『特攻隊長』。

相川千秋(16~18) 有名校に進学した姉がいて、いつも比較されながら育ってきた。本人も成績優秀のため、当然のように有名校を  受験したが、まさかの不合格。親から腫れ物に触るように扱われながら、鬱々した気持ちを抱える。クラスでも誰にも心を開かず、勉強と読書に明け暮れている。
創作・構成に、自分でも驚く天性の才能を持つ『クリエータ』

関口春菜(16~18)	裕福な両親の元に生まれた一粒種。心配性の両親に、あまりに守られて育ったため、何をするにも今ひとつ自信というものが持てない。ピアノもバレエも英会話も、子供の頃から習いはじめ、言われるままに続けてきたが、自分から何かをしようと思ったことがない。そんな自分が情けない。
誰にも優しく、可愛い妹のような『ムードメーカー』。
 
[あらすじ]

何をするにも気力がない若者が多いと言われる少子化時代。その中でも、特に「女の子は受験戦争とは無縁の、静かな環境で」というタイプの親たちのニーズに応えたかのような、東京郊外にある、私立の中高一貫女子校。

そこの高等部に入学したばかりの少女たちは、早くもグループを作り始める。そんな中、どうしても周囲に溶け込めない、四人の少女がいた。
静かにしていても、どこか異彩を放ってしまう奈津。
女子高生とは思えないほど口が達者で浮きまくる雪野。
周囲に人を寄せ付けず読書と勉強に明け暮れる千秋。
いつもほわんとして手ごたえのない春菜。
あるとき、体育の時間に「寄せ集め」のグループを作らされた彼女たちは、普段は目立たなくておとなしい春菜の高度なダンスに驚かされる。それをきっかけに、それぞれの孤独がだんだんとわかっていくにつれ、絆が深まり始める。

ある日、雪野が、椅子の上に立ち上がって、「たった一度の青春じゃん! 踊ろうよ!」と叫んだ時、四人とも、実は同じ気持ちだった。ダンス部を設立しようという彼女たちの努力が始まる。校長にかけあい、体育教師を顧問に拝み倒し、部室とレッスン場所を確保し、部員を集め、レッスンのスケジュールを立てる・・・・・・。生まれてはじめて自分がやりたいことのために創造的に努力することは、彼女たちが今まで味わうことのない幸福だった。

校長は、彼女たちの熱心さにほだされて、部活の条件に満たない彼らを特例として認める取引を持ち出した。一年目、二年目、三年目のそれぞれのダンスコンクールに入賞などのハードレールを設定したのだった。それをクリアできなかった瞬間にダンス部は解散。そして、彼女たちの戦いははじまる。

特訓に継ぐ特訓。雪野は交渉ごと一切。春菜は、ダンスの振り付け。千秋は構成。奈津は衣装。それぞれの得意分野で頑張る。そして、それぞれが自分の力に目覚める。
一年目のコンクール。ぎりぎりでクリア。
二年目のコンクール。余裕でクリア。

そして、三年目のコンクールを目前にした時だった。
リーダーの雪野の死。それはあまりに突然にやってきた。雪野の両親が仕事に失敗して、生活の基盤を失った絶望から心中をはかったのだった。雪野だけは残そうと考えていた両親に、雪野は自分の意志でついて逝ってしまう。
その悲しいニュースは、残された三人を完全に打ちのめした。自立する力をつける前に、よりどころにしていた者が崩れてしまう絶望。最も頼っていたリーダーの死は、頼られる者の深い孤独を浮き彫りにした。
やがて彼女たちは立ち上がる。

コンクールの幕は上がる。

表現者として生きていくことを選ぶ者。創造者の道を選ぶ者。そうした者を支える存在となることを決心する者。卒業式は、それぞれの旅立ちの日でもあった。


これは、不定期で書いていくことになると思う。