『本当のサービスって何ですか』11/27 高野登さん

11/27
高野登さん
お話を伺う前に思い出したことがある。
ずいぶん昔、朝、タクシーに乗っていた時に、ラジオでキャスターが、都心の公園でテニスの壁打ちをしている人にインタビューしているのを聞いた。ひとりの若い男性に「どんなお仕事をされているんですか?」と訊ねる声には、きちんとした感じを与える男性なのに、朝のこんな時間に都心でテニスをしているとは、どういう身分の人だろう、という好奇心があったようだ。すると、実にさわやかに「ホテルマンです」と答える。夜勤明けなので、少し汗を流してから下宿に戻ってぐっすり眠るという。「ホテルでフロント係りをしています」じゃなくて、「ホテルマンです」だ。誇りをもって仕事をしている人は、言葉の選び方が自然にこうなるのだろう。同時に、自分は「仕事は?」と聞かれたらどう答えるだろうと自問した。たったひとことで胸張って言えるかどうか。

「サービス業」という言葉を聞くと、今年はじめのドラマ「タイガー&ドラゴン」で、竜二か父親の仕事を聞かれて、落語家であるとは言わずに「サービス業」と答えるシーンを思い出す。それだけ、とても含みのある言葉なんだと思う。日本語の「サービス」には、無料というニュアンスがある。それから、下の立場にある者が上の立場にある者に提供する、というニュアンスもある。どっちにしても、自分がする立場に立つことには、何かしら複雑な思いを抱きがちだ。
個人的には、相手より上に立つのも、下に立つのも苦手なので、お店にもなかなか行けない。だから、高野さんの、紳士淑女をもてなす紳士淑女であれ、というホテルの思想には、とても感動した。平行の目線・・・・・・自分を大切にすることと、お互いを大切にしあうことが同時に矛盾なくできること・・・・・私が望んでいたことは、決して間違いではなかった、と嬉しく思った。

ところで、以前、近所のCDショップの店員の女性が、あまりに態度劣悪なので、とうとう耐えられなくなって、CDの購入はすべてアマゾンでするようになった、と書いたことがある。そのお店だが、一年ほど前、とうとうつぶれてしまった。場所も良いし、売り場も広いのに、いつも客が少ない、妙な店だった。あの女性は、他人にサービスして喜んでもらうことに、何の喜びも見出せなかったのだろうなぁ、と思う。それは、仕事をする者としては決して幸福なことではないと思う。やっぱり人間、楽しんですることは大事なことなのかも知れない。高野さんのお話では、ホテルの人たちは、本当に楽しそうにサービスしている、という様子が伝わってきた。それが質の高いサービスを産み、それがさらに実績につながって・・・・・・それは、ホテル側とお客が一緒に作り上げているものだと思った。

岡田くんたちにも、ぜひとも楽しんでお仕事をして欲しい、とも思ったし、私もたくさん仕事に楽しさを見出そうと思った。私は製造業だから、サービスとはちょっと違うけど。