『心ってなんだろう』05/04/10 茂木健一郎さん

ゲスト:茂木健一郎 さん
テーマ:「心ってなんだろう」

面白かった。茂木先生のお話が面白いのもさることながら、岡田くんが話に引き込まれている感じが、先週とは対称的なので、面白いと思った。これも話者との相性というものだろうか。

ところで、私も興味を引かれて、さっそく茂木先生の「意識ってなんだ」という本を読んでいるところだ。これを特に選んだわけではない。仕事場の最寄りの本屋にこれしか置いてなかったのだ。黒木瞳さんのフォトエッセイの入荷がしばらくなかったりして、私と相性の良くない本屋らしい。読了したら、アマゾンで注文することにしよう。それはともかく、脳科学がクローズアップされて、いろいろな知識が広まっている昨今でも、わかっていないことがある、という点を、とても分かりやすく教えてもらった。うっかりしていると、ありとあらゆるすべてのことが科学的に解明されている、なんて錯覚を持ってしまいがちだけど。脳というのは、結局いちばん肝心なことがわかっていない、ということらしい。意識がどうして生まれるのか。読んでみて、これはカントやデカルトなどの哲学者が直観した問題と、ぴったり一致するようで、そんな点がとても面白いと思う。科学より、哲人の直観の方が、いつも早く真理の近くにいく、という点が、個人的には一番おもしろい。

ところで、19世紀末辺りから、心理学や哲学の研究対象だった精神活動が、脳科学の研究対象になったいきさつを私が知ったのは、ブルーバックスの「考える・学ぶ・記憶する……その時脳では何が起こっているか」なる本を読んだ時だった。20年近く前のことだ。とても画期的な感じがした。「右脳・左脳」という考え方が一般的になったその頃から、脳の性質を踏まえた上での、いろいろなメンタル・ケアも生まれて、一定の成果をあげてきているように思う。しかし、精神活動の一部が未だにオカルト扱いされているので、社会的な認知という点では、進歩がまだゆっくり過ぎる感じがする。養老さんや茂木さんのような、脳科学者でスター的な存在の人たちがクローズアップされるようになったことについては、密かに期待しているところがあった。狂気を疑われた過去を埋めて欲しい、という野望がひとつ。ゴミを資源にするのりで、自分のはみ出した部分をこれから社会に対して活かしていく具体的なヒントをもらいたい野望がひとつ。

ところで、脳は一生変化する、ということだ。人とのネットワーク……岡田くんに、もうちょっと突っ込んで聞いて欲しかったのだけど、それって、本などのメディアから受ける刺激も含んでいるのだろうか。他人とダイレクトに接するのは、私には無理だ。世の中には、紫外線への抵抗力をまったく持っていない体質の人もいる。そういう人に、「もっと日に当たった方がいい」と言うのは、「死ね」と言っているのと同義だ。私は、「他人」という紫外線に対する抵抗力が、引きこもりの人ほどじゃないけれど、あまりない。インターネットなどのメディアの登場は、だから、私のような人間にとっては実にありがたいものだったのだけど……。あくまで脳の発達が、ということであれば、今の状態でも、不十分ではあってもまったくダメってわけではない気がする。うん、きっと大丈夫だ。

しかし、「人は自分を映す鏡」ということになると、例えば私は、生まれてからこのかた、一度も思ったことのないことを「思っている」人間だということになってしまうのだけど。岡田くんをナルシストだと信じて疑わない人もいる。その「鏡」は、何を映す鏡なんだろう。中世にヨーロッパで焼き殺された女性たちは、「客観的」には、悪魔と通じた魔女だったわけだし。今流行の言い回しを使って言うと「思考停止」というやつである。「鏡」ということが一人歩きすると、それはそれで恐い。できれば、鏡として一流になりたいものだな。鏡として一流である、と他の鏡たちが映し出してくれないと、それは成り立たないのだけど。頑張り甲斐がありそうだ。