物語考>「怪獣倶楽部」〜「子供向け」の話

少し前に、ドラマ「怪獣倶楽部」全4話を見ました。横浜流星さんが出演されている作品の内、配信サービスになかなか登録されなくて、断片しか見ていなかったものですが、最近paraviにアップされました。

ウルトラQ」「(初代)ウルトラマン」「ウルトラセブン」をリアルタイムで見ていた世代の人たちに強くお勧めします。60代が、ワクワク見ていたジャスト年齢だと思います。神は細部に宿ると言いますが、細かいところまで原作に対するリスペクトに溢れた楽しい視聴時間をお約束できます。個人的にはダンがアンヌに自分はウルトラセブンだと告白するシーンのオマージュで、背景がいきなりキラキラになって、最後の台詞が「○○○がピンチなんだよ」と来るシーンが、素晴らしかったと思います。

まだ20歳の横浜流星さんが、とても初々しく怪獣博士の名に恥じない博識ぶりを発揮していました。とても聡明なはっきりした語り口がすてき。そういえば、「ドラゴン桜」のコミック版で、公立高校から東大理三に進む超秀才が、自分の原点はウルトラマンだったと語っていました。「興味を感じたものをとことん調べ尽くす」というのは、東大生あるあるの性格だそうで、子供の頃に親が価値判断してブレーキをかけなかったのが、受験期の高成長に結びついている人が多いようです。

このドラマの場面は、まだ昭和の時代ですね。「オタク」という言葉もなく、そんな人たちの市民権も確保されていなかった頃だと思います。人の目を気にしつつも「でも、僕はこれが好きなんだ」に戻ってくる、知力に優れた人たち。日本のエンタテイメントがcoolなのは、そんな人たちのおかげだと確信しました。

何度か出てきた「怪獣なんて子供が見るものじゃないの」という台詞。昔、そういう言葉に出会うたび、「見るのは主に子供で、子供向けだけど、子供が作ってるわけじゃないから」という言葉が頭の中に渦を巻きました。童話作家のエンデも言っていましたが、子ども向け文学と、ファンタジーは、文学界の解放区であり、その共通集合の子供向けファンタジーとなれば特区だと。子供向けは、あらゆるジャンルで前衛的なものが許される実験の場かも知れません。「大人向け」のような世間体の良さはないけど、代わりに自由を手に入れられます。真の前衛に進むと決めたなら、その時点での世間からの蔑視は覚悟しなくちゃいけない、という教訓ですね。

その昔、ウルトラシリーズが始まって、子供たちがたちまち夢中になり、あちこちの広場で怪獣ごっこをするようになったある日、新聞でこんな記事を見ました。ウルトラシリーズを「外国や外国人を怪獣に見立てて、異質なものは攻撃して良いとする思想」だと、批判しているものです。私にとって斬新な発想だったので、それ以降TVを見ている時は無我になって埋没しながらも、見終わると「物語の作り手の思想」なるものに想像を巡らすようになりました。心のある部分がハイハイからつかまり立ちをした画期的な事件でした。世にある「子供向け物語」「エンタテイメント」を徹底的にテキストとして分析する人たちも、早い内に「これ」に気づいたからなのかも、なんて憶測しています。「怪獣倶楽部」のメンバーは、深く掘り下げる思考力から推して、そういう人たちのように見えます。それぞれにモデルになった人がいて、皆さんひとかどの人ばかりです。皆さん、約束された成功者の人生なんて目指さなかったのに。

私は、ここまで突き詰めることはなかったものの、アニメの戦闘ものや、特撮テレビドラマ等の制作者が、何らかの形で先の大戦で影響を受けた人たちだと気がついて、「そういう目」で見るようになり、「大きなお友達(笑)」になっても見続けました。一番身近にいる父母の、一番の謎の部分が知りたかったんだと思います。直接知ることは不可能だったから。

長いブランクを経て、子供が産まれた後になって、「子供の付き合い」で再び見ることになりました。既に製作者は戦争を知らない人たちに置き換わっていました。私たちの頃にはなかった少女たちの戦闘物なるジャンルも確立されていました。古くからあるウルトラマン仮面ライダー戦隊ものは、映像技術が進歩して格段にスタイリッシュになっていました。浦島太郎になった気分。大人になった目で見ると、「この台詞すごい」とか、「役者の演技力、すごい」とか、「設定がすご過ぎて子供向けとは信じ難い」とか、色々感心することも多いです。「怪獣倶楽部」の面々が夢見た「大人も子供も一緒に楽しめる」世界になったということでしょう。

ところで、横浜さんが高校生の時に出演した戦隊ものですが、娘は既に大人になって見なくなっていたので、私も見そびれました。もったいなかったと思います。

特撮・戦隊でブレイクした人でリアルタイムで見た人だと、佐藤健さんくらいまでです。今では、若手俳優の登竜門の位置付けで、大手プロダクションがオーディションに積極的になっているとも聞きました。こんなのも隔世の感があります。大戦直後に日本がやがて経済大国になるのを予測する以上に、予想外です。いい時代になったんだと思います。

今、コロナで撮影が困難なのを逆手にとって、CGのすごいのが放送されているそうですね。見てみます。将来、また「子供向け」の前衛的な物語やジャンルが生まれてきたら楽しそうですね。いつか孫と一緒に見られたら最高です。

今日はここまで

では