映画「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」見ました

ザ・ファブル 殺さない殺し屋」。6/18と6/21の2回行って来ました。以下ネタバレを含みます。

前作よりパワーアップしているという宣伝でしたが、嘘ではありませんでした。予想以上でした。1回目はドルビーで見たせいで、何度もビクッと身体が硬直してほんと、疲れました。次は娘と2人で普通のを観に行って、余裕を持って見たため、またたくさんの気づきがありました。

映画も本も不思議なもので、初めて見るのと2度目からと、内容は変わっているはずはないのに、見る者にとってそれらは明らかに「違う物」です。見える世界がまったく違うというか。まるで、勉強の本を何度も読んで頭に入れているように、その世界が頭の中で鮮明になっていくようです。この現象に気がつくと本当に面白い。

最初の視聴で最も記憶に残るのは、やはり快感アクションです。個人的には、アクロバティックなスタントやガンアクション、襲ってくる人たちをさばいていく体術も素晴らしいと思うのですが、今回は武道の優れた使い手と組み合う闘いが加わって、それがとても良かったです。いい試合を見ているような。ヨウコさんの闘いも、前回に比べて格段に多くなっていて、噂通りとても美しくセクシーでした。

そして、2度目の視聴でその先の人間ドラマの深さに気付きました。

堤真一さんがファブルの敵役となるウツボについて、表と裏の顔の内、表を偽りとしない、という意味の事を語ってらして、それってどんな事なんだろうと見る前は思っていたのです。でも鑑賞して、表も裏もウツボの中で無矛盾に統一された行動なんじゃないか、と感じました。堤さんという名優が演じてこそ伝えられる、人間性の真理かと。ウツボにとって、子ども福祉は、自分と弟が子供の頃、充分に保護されず、その結果いい人生を歩めなかったリベンジなのではないかと思うのです。表の顔では手話までマスターしています。純粋な偽善でここまでできるものでしょうか。そして、親に恵まれた人間がクズっぷりを晒すと、それを搾取したり抹殺したりするのも同じくリベンジではないかと。素質としても激情型ではなく、ファブルを殺害する計画の図面を作成しているところ、ピース数の多いジグソーパズルを何枚も仕上げているところなど、緻密に筋道立てて思考するタイプの人である事を物語っています。

ただ、それも完全ではなく、バランスの危ういものです。保護している車椅子の少女ヒナコが「自信をくれる」佐藤ことファブルに会いにいくのに、隠し持っていた色付きリップを塗る美しい横顔が、色々なことを物語っています。年頃の女の子がそれまでおしゃれひとつせず、隠れてこっそり化粧するってことです。そして、ウツボはこの子を保護しながらも然るべき施設でリハビリをさせませんでした。その上でその子と性的な関係を持ったこと。総括すると、過保護な親たちを嫌悪し「臭い血」とまで嘲笑うのはそれがウツボのシャドウだったからだとも思うのです。誰かを嫌悪しているつもりでも、実は自分の中の何かを嫌悪しているのかも知れません。

ヒナコ役の平手友梨奈さんですが、この方は凄いですね。感受性の鋭さがほんの数秒のカットからも伝わって来ます。おかげで、ひとつひとつのシーンが鮮やかに蘇ってきます。師範が惚れ込むのも無理ありません。逸材です。まだ19歳なのですか?撮影当時18歳。すごいですね。将来、どんな女優さんになるでしょうか。楽しみがひとつ増えました。どうか、これからも頑張って。

ファブルは、かつて殺し屋の仕事中にこの少女を巻き込みの死から救い出します。殺しを依頼されたターゲット以外は誰も巻き込まないというのが、殺し屋稼業の掟なのでしょうか。だから淡々とそれを遂行しただけなのかも知れません。でも、気を失ってぐったりしている少女をしみじみ見つめている目は、前作でミサキさんを助けた時と同じ、殺人機械から一歩人間に進化している瞬間なんだと感じさせました。本当にあの間(ま)は良いです。口数の少ない(ついでに語彙も少ない)ファブルは、全体にそんな間で心の内を感じさせます。これがとても良いんです。

親代わりのボスは、ファブルを殺しの機械から人間に戻してやろうと、この一年の期間をお膳立てしました。子供の頃から過酷な訓練を施して、機械にしたのはこの人なのに。でも、ボスの計画はかくも良好に進んでいるので、ボスの責任は最後まで果たされるのでしょう。

この物語の根底に流れるもののひとつは、親とは何か、ということかと思います。子供から大人になっていく過程の、白から黒へのグレーの部分に関わっていくのが親的な立場の者の役目です。保護すべきは保護し、教育すべきは教育し、見守るべきは見守り、最後は手を離して見送る、と。やってみるとこんなに難しいことを人類はこれまで連綿と続けて来たのかと驚きます。すべての親子の今と未来の幸福を祈って。

 

今日はここまで

では